これからの将来、ベンチャーって“どう”なの?!

オムロン サイエニックエックス・諏訪社長と幸陽農舎・髙林社長(CVG受賞者)が語り尽くす!

オムロン サイニックエックス株式会社代表取締役社長 兼 所長 諏訪 正樹 氏

株式会社幸陽農舎代表取締役社長 髙林 稜 氏

企業に就職するのか、それともベンチャーとして起業するのか…
CVG(キャンパスベンチャーグランプリ)にこれから申し込もうとしている学生の皆さんにとっては、大きな悩みどころかもしれません。
今回は、20184月、CVGに協賛するオムロンから、新たに近未来をデザインする研究会社「オムロン サイニックエックス」(以下:OSX)を設立した諏訪社長と、CVG13回全国大会で経済産業大臣賞を受賞し、「幸陽農舎」を起業した髙林社長が特別対談。
それぞれの視点から働くことの楽しさ、難しさを語っていただきました!

■家業で修業した学生時代…起業のきっかけは?

■家業で修業した学生時代…起業のきっかけは?

髙林:父から「お前は商売人に向いているから、コミュニケーションを勉強できるところに」と言われ、慶応大学に入学したんです。ところが、大学の授業内容なんですけど、まあ、すごく、こう、つまらない()
それで、いろんな企業にインターンに行きました。その中で様々な提案をしたんですけど、たかが大学生が、いちいちうるさいと()
それがすごく悔しくて。給料はいらないと言って、家業の土木に関わるいろいろな仕事をしました。最初は土木の職人の空いた時間で、農家さんの土地を草刈に行くというマッチング事業を始めて。

諏訪:草刈と空いた土地のマッチングを。

髙林:そうです、それで空いた農地がたくさん手に入った。ある日、「代わりに農業やってみていいよ」って言われたんで、「タダで土地が手に入ったし、野菜作ったら儲かるんじゃねえかな?」って、ひらめいたんですね。
で、だーっとやってみて、一年間の収入がたった6,000円。大失敗をしたんですね。今までどんなことも上手くやって来たのに、農業だけは全然うまくいかない。

諏訪:それはモノが作れなかったからですか?

髙林:モノは作れました。儲からなかったんです。事業にならなかった。

諏訪:作るのにお金がかかった。

髙林:そうです。コストを考えたときに、全然利益がない。そこに僕の負けず嫌い精神がガーンときて、「絶対にうまくいく農業をやってみたい」っていう思いが大きくなりました。

諏訪:それは学部生のとき?

髙林:そうです。そこからCVGに応募して、きっかけをもらって、今、一生懸命仕事をしています。
今メーンでやっているのは、マイクロバブルという水に空気を溶け込ませる技術。髪や野菜を洗うだけでなく、ペットの皮膚をキレイにするとか、そういったところに活用できます。僕たちは、モノづくりの観点だけではなく、サービス面を強くしていこうと思っています。大手さんがやらないところで頑張るという…そんな事業をやっています。

諏訪:水に空気を溶け込ませる技術っていうのは、化粧品とか他の展開も…

髙林:お誘いはあります。

諏訪:出してみてわかったっていうことですか?

髙林:そうです。最初から狙ってたわけではなくて、やってみたらお客さんが反応して…というかたちで。

諏訪:そのへんのテクノロジーっていうのは、どういう出会いで?

髙林:たまたま胡蝶蘭農園へ修業に行ったときに、マイクロバブルがあって。僕も買ってみようかなって思って見積もったら、400万円。めっちゃ高いなって ()
で、近くにあるもので何か工夫できないかなって、大学の教授に図面を見てもらって。職人仲間にエンジニアがいたので、二人で会社を作って、製品化したという流れです。

■体温計だけじゃない!工場のセンサーも、自動改札機も、信号も…身近な技術にオムロンあり。

■体温計だけじゃない!工場のセンサーも、自動改札機も、信号も…身近な技術にオムロンあり。

「ソーシャルニーズの創造」を行うチャレンジングな企業であるオムロン。未来を予測し、社会課題を解決するために、さまざまな技術や製品を開発してきました。今回新しく設立されたOSXにも、その理念が大きく反映されています。

諏訪:私はもともと研究所にいたんです。オムロンっていうと、何を想像します?

髙林:今日、母が「オムロンさんって、体重計の?ヘルスケア系の?」って()

諏訪:世間のイメージはそのとおり。オムロンの中で、血圧計とか体重計ってヘルスケア事業っていうんですけど、売り上げは約10%強くらい。

髙林:え!

諏訪:メインの事業は他にもある。残りは実は一般消費者にはあまり目につかないところで。工場のセンサーとかコントローラーとかが約50%弱で稼ぎ頭。次が、車載電装部品…パワーウインドーとか。あと、交通管制システムとか自動券売機とか改札機。
あと、これも意外なんですけど、プリントシール。プリントシールを最初に作ったのはオムロンなんです。

髙林:ええ!?()

諏訪:今、プリントシール事業は、別会社になってしまい、オムロンではやってないので、今はないですけど…僕が会社入ってしばらくしたとき、長岡京にあった研究所に、女子中高生の集まるような謎の部屋があって「何してるんやろう」って思ってて ()
のちのち、プリントシールが発売されて、これの開発してたのかっていうことがあって。雑多でしょ?

髙林:すごいです。

諏訪:雑多なんですけど、何でもやってるわけじゃなくて。社会課題を解決するというのを色々やっているうちに、結果的にそうなった。あと、根幹の技術として、センシングとコントロールっていうのがあります。
そういう技術が、あるときは工場のモノづくりになり、自動券売機になり、体温計になり…と、変わってきてるんですね。

髙林:挑戦ですね。

諏訪:オムロンは創業者の時代から、未来を予測するということをやってきました。けど、未来を描いて、そこから必要な技術をバックキャストすることが課題で。しかし創業者のような偉大な人が出るのを待っているのは難しい。ということは組織戦や、集団戦やということで、プラットフォームを作ったんです。
やりたい人は誰でもやれる。髙林さんみたいな人が手を挙げると、じゃあやろうぜって話になる。これから農業は高齢化が進む、畑がどんどん…

髙林:手放されていく。

諏訪:そうなっていくと農業はどうなっていくんだ?と、そんな未来像を考えて作っていくんです。
交通管制システムにしても、システムがあって、信号機があって、センサーがあって…でも信号機単体で考えたとき、誰が見るかっていうと、

髙林:歩行者、ドライバー…

諏訪:これからの時代、車が賢くなったら、車が信号機を見ますよね。車が見たときに、信号はあんなに高い位置にありますか、あんな形はしていますか、と。
「あれがなくなるよね」っていうことを前提として考えたときに、未来がどうなるのかが見えてくるんです。

髙林:しかも、システムとなると、一気に普及させなくてはいけないんですよね。

諏訪:それが「社会課題」です。農業のオートメーションっていうのも、ある意味、オムロンのこれからになるんです。そういうことを考えるために、ここを作りました。オムロン社員は、私とあと2人くらい。あとはみんな、適する人を外部から連れてきなさいって。そういうのが4月からスタートしました。
髙林さんも、やっていることは多分同じで、難しさも同じだと思うんです。リアルな課題があって、その中で「こういうことをやったらいいんじゃないか」っていう社会実装でしょ?先にやっている髙林さんはすごいです。

髙林:ぼくはもう、お客さんの悩みを聞いて「なんとかしますよ!」っていうのばっかりで…

諏訪:それが大事なんです。起点は一緒です。

髙林:「将来はこうなって、困るだろうな」というところを見つける、という発想は周りでも持っていないです。「今こういう時代だから」って「これをやったら役に立つ」っていうのはあるんですけど…

諏訪:オムロンにとって、モノを作って届けるのは一つの手段なんです。商品だけ見てると、自動券売機に、血圧計。一見すると、なんのポリシーもないような企業に見えるんですけど…ポリシーは何かと言うと、社会課題を解決するということなんです。
我々は「ソーシャルニーズの創造」と呼んでいるのですが、なんでもビジネスにして社会課題を解決するという会社なんです。これは高度なテクノロジーの裏付けがあるからできる結果です。

髙林:作っても活用されなかったり、幸せになる人間の数が少なかったら意味ないなあって思っています。

諏訪:そうですね。お困りごとに、どうやって役立てるか…という近未来デザインがあって、それをものにしたのがこれです、という。それは、対人サービスかもしれないし、テクノロジーかもしれない。形はいろいろあります。
そういう意味で、高林さんが農業で目の当たりにした課題というのは、ある意味、我々の課題とも一致しています。
むしろそれを先にやっていた高林さんは、農業では先輩というわけです。

髙林:畏れ多いです。

■大切なのは「熱意」。チームの軸になる「経営理念」とは?

■大切なのは「熱意」。チームの軸になる「経営理念」とは?

企業を経営していくうえで、大きな決断をしたり、方向性を定めたりする局面が多く現れます。その難しさは、大企業とベンチャーでは違うのでしょうか。鍵になるのは「熱意」と「経営理念」だと、諏訪社長は語ります。

髙林:僕は、決められないことがあるときは、目をつぶって直感で()
自分が見たい世界があって、みんな幸せそうだなって心が温かくなるような感覚の方向を選んでいます。

諏訪:直感というのは大事な要素なんだと思います。OSXでもテーマを選択するときのファクターに「熱意のある人がいるかどうか」という項目があるんです。

髙林:熱意が伴わないときは、徹夜ができないんです。寝てしまう()

諏訪:それは大事な要素です。OSXでも、勤務時間等は最大限に自由度を持たせています。兼業でもいいんです。大学の先生をしながらOSXの社員という人もいます。

髙林:やらされてるんじゃなくって、やりにきてるという姿勢が素晴らしいです。友人にも「オムロンさんに入った方がいいよ」って教えてあげたい()
多様な人を率いていく中で、チームワークを築いていくコツはありますか?

諏訪:常に「そもそも論」に戻るというのが全てです。個々人の行動は、「合わないな」というときがあるかもしれない。でも、「それは何の為にやっていたのか」っていうところに立ち戻ると、原点はブレないはずなんです。そこがブレていると難しい。

髙林:ビジョンが大事だということですね。

諏訪:考え方のよりどころさえ合っていれば、細かいところはお任せです。

髙林:こんなことしても儲からないとか、ネガティブな理由はいくらでも見つかりますもんね。

諏訪:理念は額に飾ってみるものではなく、自分事としてとらえる、ということを大事にしています。これがオムロンという会社のいいところです。

髙林:僕は「他の利益図らずして、自らの繁栄なし」と言う言葉が凄く好きで。若いからどうしても侮られる。だから、「髙林君と会ってから、会社の業績が上がった」。これしかない。感動を与えたいんです。それが僕の経営理念です。
儲かっていないところにお金が生まれて、経費が回って…より良くなってもらいたいという思いがあります。それがなかなか共有できてなかったりするんですが。

諏訪:僕らも日々実践し続けるしかなくって、まだできてるとは言えません。オムロンの山田社長は、「共感」ではまだダメで、「共鳴」を目指さなくてはならないと言っています。「そうだよね」で終わるのではなく、その人の「行動」にまで影響を与える。それが「共鳴」です。
髙林さんにも企業理念を「これや!」と決めて欲しい。

■“起業”のきっかけ

■“起業”のきっかけ

企業に所属しながら新たに企業を立ち上げた諏訪社長と、CVGをきっかけに起業した髙林社長。それぞれの“きっかけ”をお伺いしました。

諏訪:実は、去年の9月くらいに声がかかりました。東京にAIの研究拠点を作るというプロジェクトに選ばれたんですが、単なる研究所を作っても意味がないという話になりまして。やりたいことを突き詰めていくと、こういう会社になりました。
最初は全て社外の人でやろうという話にもなったんですが、企業理念をわかってるヤツが入ってたほうがええやろうと。そこで、私がやることになりました。研究所のデザイン含めて、「自由に決めていい」と。

髙林:オシャレな空間ですよね。

諏訪:いろんな議論が起きるやろうから、どこにでも書けるようにと、机にも文字が描けるんです。気持ちいいですよ()

髙林:僕は、自分で思いついたことを早く形にしたいという気持ちが大きくて起業しました。
就職活動中、「就職しても上手くいくんじゃないかな?」っていう思いがどこかにあって。でも最初に農業を教えてくれた師匠が、ある日、突然お亡くなりになって。泣きながら師匠と育てたキャベツを収穫して、「何かやってやるぞ」という思いが湧いてきました。
それが僕の大きな出会いです。他にもエンジニアや、両親など、僕は人に恵まれています。

■CVG応募者へのメッセージ

■CVG応募者へのメッセージ

最後に、これからCVGに応募する皆さんにメッセージをいただきました!

諏訪:何を変えたいのか。未来像をどれだけ持てるか。それには、緻密な計画よりも髙林さんのような「思い立つもの」が大事なんです。
「それがしたい」という情熱。これがないと、いくら材料が揃っていても上手くいかないと思います。正直にそれを自分に問うてください。

髙林:応募者として言えるのは、これから先、組織にいてもいなくても、得意な分野や、やりたいことを集まってできる環境が増えていくと思います。そうなると、決して就職する事だけが選択肢ではなく、情熱を持つ、やりたいことを人に見てもらう。それを落とし込んで、協力してくれる人を探すことが大事です。
僕はCVGを通じて沢山の出会いに恵まれ、アドバイスを貰いました。学生には柔軟な発想とエネルギーしかない。
CVGを一つの発信の場として活用してほしいです。

お二人とも、ありがとうございました!
CVGの申込詳細は、各大会のページからご確認ください。

諏訪 正樹(すわ まさき)氏

諏訪 正樹(すわ まさき)氏

オムロン サイニックエックス(株) 代表取締役社長 兼 所長

1968年、京都府生まれ。97年、立命館大学理工学研究科博士後期課程修了後、オムロン()入社。入社以来、画像・光センシングの研究開発に従事。技術・知財本部 技術専門職として籍を置きながら、20182月、オムロン サイニックエックス()代表取締役に。奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科、九州工業大学生命工学研究科客員教授。

オムロン サイニックエックスHP:https://www.edge-link.omron.co.jp/news/166.html

髙林 稜(たかばやし りょう)氏

髙林 稜(たかばやし りょう)氏

(株)幸陽農舎、(株)マイクロバブル・ジャパン 代表取締役

1993年、埼玉県生まれ。2017年3月、慶應義塾大学商学部卒業。
学生時代、建設業を営む家業にて営業職を経験。土地開発・産業用太陽光発電を手掛ける。活用できない耕作放棄地における「農地管理サービスおよび生産業」を行うが、失敗。利益の出せる農業を研修するなかで、様々な知恵に遭遇、自らのアイデアをエンジニアと共同で製品化し、()幸陽農舎を設立。美容業界をはじめとした他分野からの引き合いから()マイクロバブル・ジャパンを設立。

幸陽農舎HPhttp://koyo-bubble.com

マイクロバブル・ジャパンHP:https://www.microbubble-japan.jp